スマートホームのプロ集団X-HEMISTRY代表の新貝です。
日本でも少しずつ話題になりつつあるスマートホームの新スタンダードMatterだが、ググってみてもまだまだ小難しい記事ばかりがでてくるので、CSAの中の人でもあるスマートホームエバンジェリストとして、皆さんに正しく理解してもらうべくnoteしてみたい。
2023年に入った段階の今現在、まだまだ普及している感を感じられないMatterだが、それは当たり前で、難産の末2022年の10月にようやくV1.0となる仕様が公開されたばかり。
V1.0でサポートされる機器種別(デバイスタイプ)は、スマートホーム市場の世界的な広がりからするとまだまだ十分とは言いがたいが、今後は半年ごとに新しい仕様が公開され、サポートされる機器もどんどんと広がっていく。
2023年内には、ロボット掃除機や白物家電なんかもサポートされていく可能性が高い。
なぜここまで騒がれているか、というと、2019年にプロジェクトが発表されたときにAmazon、Google、Appleが一緒に作り上げていく規格と話題になった背景もあるが、実際Matterを規定しているCSA(Connectivity Standard Alliance)の中での活動を見ていてもその3社の貢献度は非常に高かったりする。
Matterによってもたらされる恩恵は様々あるが、大きなものとしてMatter対応のスマートデバイスを買えば、Googleだろうが、Appleだろうが、Amazonだろうが、IKEAだろうが、いろんなスマートホームプラットフォームにすっと繋がり、他のメーカーのスマートデバイスとも連携して動かすことができること、である。ちょっと玄人な言い方をすると複数のエコシステムに同じスマートデバイスを同時に繋げることができる、ということ。
音声コントロールで言えば、Alexaがしっくりくる人もいれば、Google Assistantがしっくりくる人もいれば、Siriがしっくりくる人もいるはず。一方音声コントロールはAlexaが好きでもAlexaのアプリが使いにくいなー、って思う人がいるはず。そんなとき音声コントロールはAlexaを使って、アプリの操作はiPhoneやiPadに標準搭載されているApple HomeKit(Homeのアイコンのやつね)を使う、という自由度を与えてくれるのがMatterで、待ちに待ったスマートホームの統一規格なのである。
別の身近な例で例えると、たぶん、今どき多くの皆さんはBluetooth対応のイヤホンとか持っていますよね。Bluetooth対応のイヤホンを買えば、iPhoneだろうがAndroidだろうが、MacだろうがWindowsだろうがサクッとペアリングして繋げることができるはず。それがスマートホームでもやってのけてくれるのがMatterということ。
でも、AppleのAirPodsを使う場合、iPhoneを使っていた方がより細かい設定ができるし、その逆にGoogleのPixel BudsはAndroidの方がより細かい設定ができたりする。
Matterも似た作りになっていて、いろんなプラットフォームに繋げることができる反面、プラットフォーム毎に差別化ができる作りになっている。
こういう競争領域を残しているのがMatterの特長でもあるため、一見敵対している競合同士が手を組んだ所以でもある。そもそも分断したまま放置していたらスマートホーム普及の妨げになるよね、まずは業界発展のために手を取りあおうぜ、と、ジャンプの王道漫画のような感動の世界感を持った側面もあるのがMatterだったりする。
Matterの初期設定がこれまた秀逸で、製品についているQRコードを読み取るだけで家のネットワークにサクッと繋いでくれるという出来映えになっている(Apple Homekitがそんな仕様だったがAppleの貢献により実現)。
もっと凝った作りになっていると、スマホをタッチするだけとか、オンラインでポチった段階で箱を開けて電源を入れたら家に繋がるように仕上げて発送してくれたりできるのがMatterなのである。
これまでのスマートデバイスって、専用のアプリをインストールして、初期設定用のWiFiにスマホを繋いで、専用のアプリから接続したい家庭内ネットワークのWiFi SSIDを探して…って、初期設定の段階から離脱要因が満載だったわけだけど、普通にスマホを使える人であえれば簡単に初期設定ができるようにしたいよね、という設計思想が使い始める段階からしっかりと設計されている。
Matter誕生前のこれまでのスマートホームは、自分が持っているスマホやパソコンのOSを確認し、これから買う機器がどのOSに対応しているかを見て買わないと買ったのに使い物にならなかった、という状態だったわけ(それってスマートなの?、という時代だった)。
スマートホームをちょっとやっている人はわかると思うけど、「Works with Alexa」「Works with Google Home」「Works with Apple Homekit」というロゴが製品についているかどうかを見て買わないといけなかった。
Matterが普及してくるとMatterのロゴがついた製品を買うだけで、「あ、これうちに繋がるやつね」という時代になってくる。イヤホンを買うときに「Bluetooth」のロゴを見て「あ、これ繋がるね」と思って買うと思うけど(もはや十分に普及しているので見ないで買う人も少なくないかも)、Matterはスマートホームで同じ立ち位置になっていく。
WiFi、Bluetoothのロゴって「これなんのロゴ?」っていう人は相当リテラシーが低くないといないと思うんだけど、Matterのロゴがあと数年でWiFiやBluetoothのロゴと同じ立ち位置にのし上がってくると思って間違いない。
もう少しだけMatterの特長を簡単に書いておくと、家庭内のローカルネットワークで完結できるように設計された規格なので、インターネット回線が切れてもスマートホームとして使える設計になっていたりする(リモート操作は当然無理)。
あとはセキュリティのためブロックチェーンを活用していて、ブロックチェーン上に存在している正規品のIDを持っている機器しか家庭内ネットワークに繋がせない、という工夫もされていたりする優れものだったりもする。
Matterで標準対応しているThreadというGoogleが長年推進してきた通信規格も優れもので、Threadは動作がめちゃめちゃ速い。
これまでスマートホームの業界で広く使われていたZigbeeやZ-Waveなどの仕組みをうまくMatterネットワークに参加させる仕様なんかも練り込まれていたりする。
じゃ、どうやったらMatterでスマートホームができるの?ということに少し触れておくと、Googleのスマートホーム製品、Amazonのスマートホーム製品、Appleだとついこの前発表された第2世代のHomePodやHomePod Miniや第5世代以降のApple TVを持っていたら、それらの製品がMatter対応の製品を束ねるハブ(Matter用語でいうとコントローラ)になってくれる。
GoogleやAmazonは親切にも2022年末からソフトウェアアップデートを配信してくれていて、Amazonでいうと本当に初期の一部のモデルを除いてMatter対応にアップグレードしてくれるということになっている(たしか、Googleは全製品が対象だったはず)。Amazonは2022年中に17製品を対象にソフトウェアアップデートを配信しており、2023年Q1中に追加で13製品を対象にソフトウェアアップデートを配信してくれる。
もっと言うと、皆さんが持っているAndroidやiOS/iPad OS/Mac OSですらMatter対応にアップグレードしてくれる出血大サービス(Androidは8.1以降)がMatterという正義の新スタンダードなわけである。IKEAもMatter対応の新製品DIRIGERA(英語だとディリジェラみたいな発音、スエーデン語だとディリヘラみたいな発音、でもIKEA Japanのサイトだとディリフェラ…)の販売を開始しているし(2023年2月時点でMatter対応のソフトウェア配信は後日を予定)、日本でも100万ユーザーを抱えているSwitchbotも2023年の春頃までにMatter対応のゲートウェイを販売開始してくるので、これで普及しないわけがない、というくらいのやつなのである。
ただ、Matterを策定している団体CSAに加盟している日本企業はうちを合わせてもまだ10社ちょっとしかいない、という惨憺たる状況なのが我が国スマートホーム後進国の日本。。。でも、上述したような大手プレイヤーが全面サポートをしている正義の規格なので、今後は慌てたように日本企業もサポートを表明してくることが容易に想像できるお楽しみ規格なのである。
Matterをはじめとして、スマートホームのことをより深く理解したい、という企業担当者の方がいましたら、スマートホームのプロ集団X-HEMISTRYまでお気軽にお問い合わせください。
著者 : 新貝 文将
スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役。
2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。
2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。
2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。
リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作にも深く関わり、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。
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