インターホンはガラパゴス

Smart Video Doorbell

スマートホームのプロ集団X-HEMISTRY代表の新貝です。

今回は日本がリープフロッグされた技術革新「スマートビデオドアベル」について書いてみたい。

リープフロッグという用語についてはご存じの方も割といると思うが、一応簡単に解説しておく。

リープフロッグとは
文字通り「蛙がジャンプして跳び越えていく」ということを表している用語で、
一般的には「新興国において最新技術の導入が一気に進行し、先進国の先に跳んでいってしまう様を表す」という用語である。詳しくは本題と外れるので他のサイトに譲ることにする。

スマートビデオドアベルとは
本題の「スマートビデオドアベル」とは、Amazonから販売されているRingやGoogleから販売されているNest Doorbellなどが該当し、平たく言うとスマホで扱えるスマートなインターホン(ドアホンとも呼ばれるがここではインターホンと呼ぶことにする)である。

日本のインターホンと、スマートビデオドアベル


日本では、ほぼ100%の住宅でインターホンが普及している。今から10年ほど前に北米でインターホンの話をすると日本はなんて先進的なんだ?!なんでうちの国でそんな便利なものが普及していないんだ?と羨ましがられたことが今では懐かしい。

その当時の北米はどういう状況だったのかというと、いわゆる「ピンポン」となるだけのチャイムが主流だったため、「音だけのお知らせで玄関先の様子を確認するすべもなく玄関に走って行く」という利用形態だった。

実は今、海外ではチャイムからスマートビデオドアベルにリープフロッグし、かつて日本が誇っていたインターホンは時代遅れのガラパゴス化しているということが起こっている。

いや、日本でもスマホで応答できるインターホンがパナソニックやアイホンから販売されているよね、という意見も聞くが、全く次元が違う別物なのが「スマートビデオドアベル」なのである。

日本で売られているスマホ対応インターホンは、スマホで応答できる機能は後からつけられた付加機能であり、スマートビデオドアベルは最初からスマホで使うことを前提に作られている。

なので、まずリビングの壁に(景観を乱す形で)取り付けられているような専用のモニター付きパネルが存在しない、というか不要なのである。

ピンポンボタンを押されたら家の中にいようが、家の外にいようが、地球の裏側にいようがスマホで応答できるのが「スマートドアベル」だ。

またインターホンのパネルは、リビングに設置されていることが通常。なので、宅内にいても距離があって応答が間に合わない、そもそも呼び出し音が聞こえないということもあると思う。昨今だと在宅でリモート会議中だったため応答しそびれる、ということも経験した人も少なくないだろう。お年寄りの場合だと、呼び出し音が聞こえてもそもそも間に合わない、ということもあるかもしれない。

つまりインターホンは”生活に欠かせないもの”の、呼び出し音が聞こえたら速やかにリビングの壁まで走って行かないと訪問者が去ってしまう、という弱点をはらんでおり、それにより「あーあー。。。」という経験をした人は少なくないのではないか。

日本のインターホンが、スマートデバイスになりきれない弱点

日本のインターホンも持ち運び可能な子機を別売で販売しているタイプもあるので、在宅勤務には必須のアイテムだ、なんていうブログも見た気がするが、そもそもスマートビデオドアベルであればわざわざ子機を買わなくてもどこにいようがスマホで手元にあれば応対ができるのである。

さらに言うと実はインターホンには、スマートデバイスになりきれない致命的な問題がある。火災報知器機能と連動しているタイプのインターホンは、ソフトウェアアップデートによる機能アップデートができない、というスマートデバイスとしての致命的な弱点を抱えている。スマートデバイスは、ソフトウェアアップデートによって進化することが期待できるにも関わらずだ。

海外で普及が進むスマートビデオドアベルは、人気を博していることから競争が激しくなっており、AIに対応するモデルが徐々に増えてきている。そういった追加機能もソフトウェアアップデートによって提供されたり、AIの精度向上や追加機能なども後からアップデートできたりする。

スマートビデオドアベルのAI化で出来ること

ちなみにAIで何ができるかというと、ベーシックなものだと人や車両などを識別し、設定により気になる対象物が見えるとボタンを押されなくてもスマートドアベルが能動的に動画を撮りクラウドに記録したり、スマホに動画を送ってくれたりもする。

つまり玄関先でウロウロしている人をお知らせしてくれたり、家の前に車が到着したらお知らせしてくれたりするのだ。

顔の認識ができるタイプになると、例えば「子供が帰宅したら自動記録してその様子をスマホにプッシュしてくれる」なんていうこともできたりする。顔認証の精度が高まれば住人を認識してスマートロックを解錠してくれる、という世界も将来的にはやってくるはずである。

ふとスマートロックについて触れたが、実はスマートビデオドアベルとスマートロックはかなり強力な組み合わせである。

スマホで応答したとき、来訪者が家に入れてもいい人であれば同じスマホからスマートロックを解錠し中に入れてあげる、ということもできたりする。

昨今日本でも置き配が普及し始めているが、置き配は盗難リスクがあるので不安という人がいたら、顔見知りの宅配員であれば宅内に置いていってもらう、ということもできるのである。

さらにはスマートビデオドアベルを使う家が増えている地域では、地域全体のセキュリティが強化される効果もあり、RingやVivintなどの事業者はそこにフォーカスした付加価値サービスなども展開している。

どういうことか、というと、例えば家の前で何かが壊されたりいたずらされたりしたとする。そのときに自分の家のスマートビデオドアベルで記録された映像だと当事者らしき人物が鮮明に捉えられてなかった場合、近隣住民に該当時間帯の映像提供を依頼すると、応じてくれた住民からシェアされた映像でその人物を特定できたりする。

例えば、置き配の荷物が盗まれたときに「うちではこんなことがあったので近隣の皆さんも気をつけてください」とコミュニティに映像を投稿することで「うちでも類似の盗難がありました」と複数の近隣住民からも同じ人物が映った映像がシェアされ、犯人が特定され逮捕に至ったという実例もあったりする。
つまり家と家が繋がることで地域コミュニティの安全性を高める効果も得られるわけである。

一方でローカルネットワークで完結するインターホンに比べ、クラウドを経由するスマートビデオドアベルはボタンが押されてからスマホに着信があって、応対できるまで数秒のタイムラグが起こる製品があるため、日本では普及が進まない、という意見もある。

もっともな意見かもしれないが、普及が進むアメリカだとスマートビデオドアベルの認知度が高いため、訪問者はタイムラグがあることを認知しているおりその分待ってくれる、という利用シーンになっているようだ。

スマートビデオドアベルの歴史
2013年にSkybellという会社が発明したことに端を発しており、同じ時期に立ち上がったRingは2018年に$1.8BにAmazonに買収されAmazonの販売力で今では圧倒的なシェアを獲得している。Skybellは北米においてB2B2C展開しているためRingと比較して認知度が低いもののRingに次ぐマーケットシェアを獲得している。スマートビデオドアベルはアメリカでもっとも普及が早いスマートホーム製品で、Ring、Skybell、Google以外も多くのメーカーが参入してきている(ちなみにスマートビデオドアベル周りの特許はほとんどSkybellが保有している)。

日本はインターホンの普及率がほぼ100%であり、パナソニック、アイホンの2強の牙城が強固でなかなか普及が進んでいない、というのが現状である。しかしながら、他のスマートホームと同様、徐々に認知が高まって普及が始まると、その牙城も崩れ去る可能性が高いと思っている。逆にそうならなかったとすると、日本は世界から遅れをとったスマートホーム後進国となりかねないと思っている(まだガラケー使っているの?的な)。

最後になるが、当然Matterでも「スマートビデオドアベル」は標準規格化の対象になっている。

スマートビデオドアベルを始めとしてMatterやスマートホームのことなどをきちんと知りたい、導入や事業化を検討したいという企業担当者がいましたらスマートホームのプロ集団X-HEMISTRYまでお気軽にお問い合わせください。


著者 : 新貝 文将

スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役。

2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。

2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。

2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。

リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作にも深く関わり、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。

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