プラットフォームサービス開発前の調査からローンチ後の運用まで伴走型の支援を実施ー三菱地所「HOMETACT」

X-HEMISTRY(ケミストリー)株式会社は、スマートホームに関する事業プランの立案から事業立ち上げ・運用に至るまで、伴走して支援を行うプロ集団です。これまで複数のスマートホーム関連事業の事業立ち上げに伴う支援実績があります。

三菱地所が提供するスマートホームサービス「HOMETACT」では、世界的にも前例のない不動産デベロッパーによるプラットフォームサービスの開発を調査段階から支援させていただいています。

今回は、三菱地所の「HOMETACT」プロジェクトでリーダーを務める橘嘉宏氏をゲストに迎え、X-HEMISTRYとの協働の軌跡や今後の展望について、代表の新貝文将との対談形式で聞いていきます。

対談者紹介

橘 嘉宏
橘 嘉宏

三菱地所株式会社 住宅業務企画部 新事業・DXユニット 統括

分譲マンションの用地業務やリノベーション事業立ち上げなどを経験した後、住宅事業グループのバリューチェーン推進業務、DX施策・新事業立ち上げなどに従事。総合スマートホームサービス「HOMETACT」のプロジェクトリーダーを務める。

新貝 文将
新貝 文将

X-HEMISTRY株式会社 代表取締役

イッツ・コミュニケーションズ株式会社、Connected Design株式会社、株式会社アクセルラボなどを経て、2019年にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム業界で10年にわたる経験を持ち、さまざまな企業のスマートホーム新規事業の開発からローンチ、運用に至るまでの伴走支援を行う。

スマートホーム事業化に向けた調査段階から伴走をスタート

ーー「HOMETACT」のプロジェクトにX-HEMISTRYが加わるようになった経緯を聞かせてください。

新貝
新貝

橘さんと出会ったのはX-HEMISTRYを設立する前、私が前職でスマートホーム事業の立ち上げ・運営を行っていたときで、確か2018年頃だったかと思います。

橘

当時、私は弊社のグループ会員組織やCRMデータを統合するプロジェクトを担当していて、「お客様とデジタル接点を作ることでより強固な顧客接点を創りたい」と考えていました。当時はスマートホームにまで考えは至らず、まずはスマートロックを活用して、会員向けWEBサービスのインターフェイスと結びつければ最低でも1日2回はお客様との接点を作れるのではないか、と考えていたところでした。

新貝さんとの出会いでより広いスマートホームの世界を知る切っ掛けを得たわけですが、一方で日本国内では必要な情報が入手できずに困っていたんです。

新貝
新貝

三菱地所さんのHOMETACTチームを本格的に支援させていただくようになったのは、2019年秋にX-HEMISTRYを設立した頃です。

2020年の1月には世界最大級のテクノロジーの展示会であるアメリカの「CES」に皆さんをお連れして、スマートホーム先進国の実例を見て回りながらレクチャーをさせていただきました。

橘

私ひとりがCESに行ってレポートをまとめても、スマートホームの可能性を社内の人間に伝えることは難しいと思っていたので、弊社のメンバーが現地で実地体験を積めるようにX-HEMISTRYさんが調整してくださったのは有り難かったですね。

そのおかげで、日本においてもスマートホームは「当たり前」のものになるとメンバー全員が確信し、デベロッパーとしての強みを活かして自らプラットフォームを立ち上げようという方針が固まりました。

デベロッパーの専門外の分野に関してはパートナー事業者を紹介

ーー三菱地所が自らプラットフォームを開発するという方針を、X-HEMISTRYはどう受け止め、どのように関わっていったのでしょうか。

新貝
新貝

デベロッパーがスマートホームのプラットフォームを提供するというのは世界的に見ても前例がないことです。かなり思い切った決断だと感じたので、「橘さん、本当にプラットフォームを立ち上げるんですか?」と何度も聞いてしまいましたよね。

橘

そうでしたね。弊社の方針を受けてX-HEMISTRYさんが紹介してくださったのが、現在、弊社のパートナーとなっている米国企業のYONOMI.Incです。クラウドを活用したプラットフォーム提供の実績があるYONOMIとの連携が可能になったことで、プロジェクトが一気に加速していきました。

当初はアメリカをはじめとした海外のプラットフォームをローカライズして日本に持ってくることも考えたのですが、それは結局、断念しました。これには3つの理由があって、まずは技術的な観点で、海外の通信規格に基づくスマートホームパッケージを単純に輸入してくるだけでは既存の日本特有の住設機器とのインテグレーションハードルが高いこと、また不動産業界の業務慣習の観点からも単純なローカライズでは日本市場にフィットするサービスがつくれないこと、そして取り組むからにはこのスマートホーム事業を本当の意味での三菱地所のDXにつなげたいとの思いがあったからです。

日本におけるDX化は単なるデジタル化に留まりがちですが、トランスフォーメーション(つまり、変態するということ)につなげるには、これまで取り組んでこなかった領域にチャレンジし、不動産領域における新たなビジネスモデルを立ち上げる必要があります。自社ブランド物件のみならず、他社にも提供できるようなプラットフォームを初期段階から構想していましたので、YONOMIの機能を活かしながらも自社開発にこだわりたいというのが弊社の意向でした。

新貝
新貝

橘さんとは「日本でスマートホームの普及を阻む要因となっていることを包括的に解決できるサービスにしたい」ということをよく話していました。具体的に言うと、「デバイスごとに操作アプリ等が異なり一括操作ができない」「設定作業が複雑」「導入後のサポート体制が不十分」などといった導入障壁をクリアしていく必要があったのです。

そこで、システム開発だけではなく、ローンチ後のシステム保守やサポート体制のつくり方などに関しても、どの段階でどのようなことが必要になるかをアドバイスさせていただきました。

スマートホームサービスに関する設定サポートやコールセンターの体制づくりなどは、弊社の既存のリソースでは対応できないことだったので、パートナー事業者を選定しなければなりませんでした。X-HEMISTRYさんにも知見を頂き、どのような事業者と連携すればよいのかについても具体的な提案をしてくださったので本当に頼りになりました。

海外とのリモート会議では英語でのやり取りをサポート

ーー「HOMETACT」の開発は、どのように進めていったのでしょうか。

橘

YONOMIと「日本でまずは実証実験を」という話がまとまり、いよいよこれからというタイミングで新型コロナの感染拡大が始まったんですよね。でも、それまでにX-HEMISTRYさんのサポートを受けて海外での情報収集も十分に進めていて、アイディアや目指すべきビジョンが手元にある状態でコロナ禍を迎えたので、弊社としては「ここで止めるわけにはいかない」という思いがありました。

新貝
新貝

海外出張ができなかった時期の開発でしたし、7カ国のメンバーとフルリモートで作業を進めました。あれはかなりエキサイティングな体験でしたね。

橘

ビジネスの観点やシステム要件として必要なことはもちろん、日本の住環境や住文化についてもリモートで説明するのはかなり大変でした。湯船につかる習慣のない海外スタッフに「浴槽には追い焚き機能が必要」と説明しても、「What’s re-boiling ???」という反応になってしまうので、一つひとつ英語で丁寧に説明しなければならない。そんな場面では新貝さんたちの英語力や経験に助けられました。

新貝
新貝

普通だったら諦めてもおかしくない場面もたくさんあった中で、「HOMETACT」がローンチにこぎつけられたのは、HOMETACTチームの情熱と突破力があったからですよ。

橘

それができたのは、「スマートホームは次世代のインフラになるはずだ」ということが弊社のメンバー全員の共通認識となっていたからだと思います。だからこそ上司のバックアップも得られ、住宅部門として覚悟を持って開発を進めることができました。

新規事業の立ち上げにあたっては、有識者からの助言や客観的評価が社内コンセンサスを進めていく上で非常に重要だと思いますし、X-HEMISTRYは実地での調査にも同行してくださっているので、社内メンバーからの信頼も厚く、まさにチームメンバーの一員としてご活躍頂きました。

他社への外販を始めた現在も伴走型支援を継続

ーー「HOMETACT」は2021年秋に三菱地所の自社物件への導入が始まり、現在は外部のビジネスユーザーへの販売も行っています。実装が始まってからの手応えはいかがですか。

橘

弊社物件のモデルルームに「HOMETACT」をフル実装した状態で記者発表会を開いた際は、「とうとうここまで来たか」と胸にこみ上げるものがありました。

新貝
新貝

その後すぐにスマートハウスEXPOにも出展しましたが、デベロッパーやハウスメーカーだけではなく、家電メーカーの方々からの反響もすごかったですね。

橘

スマートホーム業界の市場そのものが拡がってきていて、ようやく日本のIoT業界全体の潮目が変わりつつあるのかもしれません。日本のメーカーはこれまでクラウドAPI連携に消極的なことが多かったのですが、弊社のプラットフォームが間に入ることで、ユーザーに選ばれる機器にするためにAPIの開放を検討する方向性へと変わっていく可能性もあります。

「HOMETACT」は外販でも多くのお問い合わせをいただいており、我々も自信をもってサービスを提供できているのは、X-HEMISTRYさんのアドバイスを受けてローンチの時点でサービスの土台をしっかり固めていたからこそだと思います。

ーー橘さんにとって、X-HEMISTRYはどのような存在ですか。

橘

X-HEMISTRYさんには開発前の調査段階から、サービス開始・運用、システム拡張に至るまでずっと伴走していただいているので、コンサルというよりは事業パートナーに近いという認識です。サービスを立ち上げて実際に運用した経験まであるというのは一般的なコンサルにはない強みですし、海外のスマートホーム事業や関連技術全般に関する情報リサーチ能力も非常に高いので頼りになります。

IoTの酸いも甘いもかみ分けてきたX-HEMISTRYさんだからこそ、それぞれの段階で「このポイントはつまずきやすい」ということをご存知で、実装する段階に入ってから検討すべきことについても具体的なアドバイスをいただけたのは有り難かったですね

新貝
新貝

デスクトップリサーチだけではなく、リアルに海外に情報を取りに行っているのがX-HEMISTRYの強みです。実際に複数のスマートホーム事業を立ち上げ、運用までしてきた経験があるので、一般的なコンサルよりスマートホームに特化した幅広い情報を持っているとの自負はありますし、これからもそれを活かしたご提案ができればと考えています。

必要とする全てのお客様に提供できる体制づくりを

ーー今後の展望について聞かせてください。

橘

「HOMETACT」は、アメリカ型のスマートホームサービスを念頭に置いて住設機器のデバイス連携を進めてきたサービスですが、今後は従来の日本型の「スマートハウス」にみられたHEMS(※)も実装してハイブリッド型での展開をしていくことで、さらに多くの事業者の方々にご利用いただけるようにしたいと考えています。

※HEMS:Home Energy Management Systemの略。消費エネルギーを可視化し、住宅機器を最適に制御する管理システムのこと。

新貝
新貝

「HOMETACT」は「三菱地所」という大手デベロッパーならではのブランド力がお客様の安心感につながっているように思います。これからスマートホームの活用を検討する事業者の方々にとって、その安心感が後押しとなり、スマートホーム市場の拡大につながっていくのではと期待しています。

橘

X-HEMISTRYさんとは当初から、スマートホームを特定のエリアだけのサービスにはしたくないということをお話ししてきました。今後は拡販体制の強化にも取り組み、スマートホームを必要としている全てのお客様や事業者様にフレキシブルにサービスを提供できるようにしたいですね。

また、海外ではスマートホーム導入による「賃料アップ」などの効果がデータとして可視化されていて、物件の付加価値向上につながることを各事業者が理解しています。この点は日本ではまだ周知されておらず、事業者よりもエンドユーザーの方がスマートホームの将来性を正確に理解しているという逆転現象すら起きているのが現状です。

「HOMETACT」実装による物件の付加価値の向上を目に見える形で示せるように、今後はさらに導入実績を積み上げていく必要があると感じています。

新貝
新貝

大手デベロッパーが自らプラットフォームを立ち上げたことで、業界全体がスマートホームの存在を無視できなくなる流れが生まれたように思います。

三菱地所さんは、日本のスマートホーム業界の扉を本当の意味で開いた存在だと言えますし、これからも業界全体のリーディングカンパニーであり続けてほしいですね。

橘

スマートホームはただ便利な家というだけでなく、エネルギーマネジメントやセキュリティといった面で社会課題のソリューションに役立つ存在へと進化できるということを、私は新貝さんから教えていただきました。日本でもそのような動きが起きてくるべき時期であり、弊社がその流れをリードする存在にならなければと考えています。

そのためにはX-HEMISTRYさんのサポートが欠かせないので、これからも良きパートナーとしてお力添えいただけると有り難いです