あらゆるプラットフォームに対応する共通規格「Matter」のV1.0が2022年10月に公開されたことで、2023年以降、日本のスマートホーム市場は急速に活性化していくと予想されます。
今回はスマートホームに関する新規事業を検討するためには、どのようなトピックを押さえておく必要があるのかを、代表の新貝に聞いていきます。
スマートホームにより実現する暮らしとは?
――そもそも「スマートホーム」とは、どのようなものを指すのでしょうか。
スマートホームとは、「IoTやAIの技術を用いて、便利で快適な空間を生み出す家」のことを指します。もう少し詳しく説明すると、「家の中にあるさまざまな設備や家電などをインターネットにつなげて、それらをスマホやスマートスピーカーなどでコントロールし、複数のデバイスが連動することで便利で快適な空間を生み出す家」と言うこともできます。
例えば、朝起きてリビングにやって来たとき、スマートスピーカーに「おはよう」と声をかけると、部屋のカーテンが開き、照明がつき、エアコンが動き出すという場面を思い浮かべていただけると、スマートホームのイメージがつかみやすいかと思います。いちいちスイッチを入れに行ったり、リモコンを操作したりといった手間はかかりません。スマホの位置情報でユーザーが自宅の最寄駅に到着したことがわかれば、自動でエアコンのスイッチがオンになり、お風呂のお湯はりを始めるといったことも可能になります。
このほか、スマートロックを活用することで、家の鍵の開け閉めもスマホの操作で行えるようになります。鍵が開いた際に玄関先のカメラが作動するようにしておけば、帰宅した子どもの様子を親が仕事先などからスマホで確認することもでき、スマートホームは子どもや高齢者の見守りといった課題解決に役立つものとしても注目されています。
アメリカではスマートホームは「当たり前」になりつつある
――スマートホーム先進国といわれるアメリカでは、スマートホームの市場規模はどれくらいなのでしょうか。
ある調査結果によると、アメリカでは既に約38%の家庭がスマートホームを利用しています。家電量販店ではスマートホームに関連する機器類やデバイスが、スマホの売場と同じくらいの面積で展開されていて、スマートキーなどが壁一面にずらりと陳列されています。アメリカでは、スマートホームは富裕層など一部の人が利用するものではなく、ごく普通の人々が当たり前の感覚で利用するものとなっているのです。
――アメリカでスマートホームがここまで普及しているのは、なぜだと思いますか。
スマートホームが「便利なもの」であることに加えて、「生活上の課題や社会的課題の解決に役立つもの」であることが人々に広く認識されているからだと思います。
さまざまな設備や家電の一括操作や遠隔操作が可能になり、家事の手間が減って時短につながるというスマートホームの利便性は、日本の皆さんも想像しやすいですよね。しかし、スマートホームのメリットはこれだけに留まらず、留守宅の見守りなどを可能にすることで防犯対策の強化にもつながりますし、漏水の早期検知などの防災対策や節電対策としても有効です。アメリカでは、こうした課題解決につながる点も高く評価されているからこそ、スマートホームが急速に普及しているのではないでしょうか。
近年は、主要メーカーが新たに発売するものの多くはコネクテッドデバイスになっており、アメリカにおけるスマートホームの普及率は今後も上がっていくことが予想されます。
スマートホーム後進国の日本。「Matter」の登場で2023年は変革の年に
――日本ではスマートホームは現時点でどれくらい普及しているのでしょうか。
日本ではスマートスピーカーを設置している家庭も含めて7~8%程度の普及率で、スマートホームのみで考えると普及率はおそらく5%にも満たないのではないでしょうか。これは世界的に見てもかなり低い数字で、日本はスマートホームに関しては世界から取り残されてしまっているというのが現状です。
――なぜ日本ではスマートホームの普及が遅れているのでしょうか。
ソフトウェア開発を苦手とする企業が多いからだと思います。日本の企業はハードウェア中心のものづくりを得意としてきましたが、さまざまな設備や家電をインターネットにつなげるスマートホームに関連する事業では、クラウドやアプリをつくる能力も求められます。従来、住宅関連設備や家電は売り切り型の販売形態を取ることが多く、ソフトウェアをアップデートしながら継続的に利用することを前提としたシステムはありませんでした。そのため、現状ではクラウドやアプリといったソフトウェア開発まで手が回らないという企業が多いのです。
――スマートホーム後進国である日本の市場が変わっていく可能性はあるのでしょうか。
2022年10月に、スマートホームの共通規格である「Matter」のV1.0が公開されたことは、日本のスマートホーム市場にとって追い風となると考えられます。
「Matter」公開前は、スマートホームに必要なデバイスを揃える際、自分が利用しているプラットフォームの種類(Alexa、Google Home、Apple Homekitなど)に応じて、それぞれに対応したデバイスを購入しなければなりませんでした。しかし、「Matter」は共通規格なので、「Matter」に対応するスマートデバイスを購入すれば、どのプラットフォームにもつながることができます。これにより、音声コントロールではAlexaを使い、スマホアプリではiPhoneやiPadに標準搭載されているApple Homekitを使うというように、複数のメーカーのスマートデバイスを連携して使えるようになりました。
これはつまり、Bluetooth対応のイヤホンを買えば、iPhoneでもAndroidでも関係なくつながることができるというのと同じようなことです。「Matter」の登場により、デバイス選びの制約がなくなるのに加えて、各デバイスの初期設定の手間もかからなくなるため、スマートホーム導入へのハードルはかなり低くなるはずです。
――「Matter」は今後、人々の暮らしに定着していくのでしょうか。
「Matter」は半年ごとにバージョンアップが予定されていて、サポートされる機器も増えていく見通しです。2023年内には、ロボット掃除機や白物家電などもサポートされる可能性が高いと言えるでしょう。
現時点では、世間一般の人々の「Matter」の認知度はまだそれほど高くないかもしれませんが、日本でもあと数年のうちに「Matter」はWi-FiやBluetoothと同様の立ち位置になるはずです。「Matter」対応のデバイスを購入すれば、どのプラットフォームにもつながることができる時代になることで、日本国内でもスマートホーム事業が一気に加速していくことが予想されます。
スマートホーム市場は異業種参入の可能性に満ちている
――「Matter」の登場による市場の変化は、現時点ではスマートホーム市場に参入していない企業にとっても事業領域を拡大させるチャンスかと思います。特にスマートホームの動向をチェックしておくとよい業界があれば教えてください。
日本でもアメリカの市場と同様に、家電メーカーではコネクテッド家電が増加していくと予想されます。住宅業界においても、今後はスマートホームが標準装備になっていく可能性が高いと言えるでしょう。
そのほかにも、自動車、携帯電話やスマホ、錠前(鍵と錠)など、暮らしの中で必要なものを扱っている企業であれば、自社製品がスマートデバイスへと進化して、スマートホームのプラットフォームとつながる可能性を検討してみる余地は十分にあると思います。例えば、日本の住宅では来訪者をカメラで確認できるインターホンが広く普及していますが、海外では来訪者がブザーを押すと住人がスマホで確認して応答できる「スマートビデオドアベル」が普及しており、今後は日本でも広まっていくでしょう。このように、日本国内でこれまで広く普及していたものがスマートデバイスに置き換わる可能性は十分にあるのです。
また、損保や通信業界では、自社の保険に加入すれば提携先のホームセキュリティの利用料を割引する、自社のインターネット回線を契約すれば通信費を割引するといった、いわゆる「まとめ売り」のバンドル戦略を取っているケースも多いかと思います。今後は「何とまとめて売るか」を考える際にスマートホームも有力な候補となると予想され、顧客がサービスを解約すると利用中のスマートホームの機能を使えなくなることは強力な解約抑止策となることでしょう。
――大きな変化が予想される日本のスマートホーム市場で新規事業の立ち上げを検討している企業に対して、X-HEMISTRYはどのような支援を行っているのでしょうか。
X-HEMISTRYは、「新規事業の立ち上げ経験が豊富」「スマートホームに関する最先端の知見を有する」「海外も含めたコネクションが多数あり、英語での交渉も可能」という強みを活かして、クライアント企業様に最適の提案を行い、コンサルティング業務のみに留まらず事業のローンチまで伴走する形での支援を行っています。
当社ではエデュケーションにも力を入れ、クライアント企業様には、具体的なご提案やご支援を開始する前に、3カ月程度かけてスマートホームに関するレクチャーをご提供することから始めています。グローバルな業界動向のレクチャーを行い、海外市場で起きていることなどをご説明すると、「自社でこれまでスマートホーム事業への参入を検討していなかったことこそがリスクだった」とおっしゃる企業様が多いですね。
これまで日本はスマートホーム後進国だったため、スマートホームに関する事業を立ち上げているというだけで注目されることが少なくありませんでした。しかし、「Matter」という便利な手段が登場したことで、今後はそれを活用してどのようなサービスを提供できるかが問われる時代になります。
アメリカの市場では後発企業は苦戦を強いられているケースが多く、スマートホーム事業で成功を収めたいのであれば早めに市場に参入したほうが有利です。
「Matter」でサポートされる機器類が増えていき、日本の市場が大きく動くことが予想される今だからこそ、スマートホームに関する新規事業立ち上げを検討されている事業者の方々は、ぜひお早めにX-HEMISTRYにご相談いただければと思います。
スマートホームに精通する専門家集団によるスマートホームコラム
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