不動産業界の経営者に告ぐ「真のDXトレンドはこれ」

Smart Home as a DX

米国ではスマートアパートメントが急成長


先日リビングテック協会でカオスマップを披露したが、今回はその中から「スマートアパートメント」というカテゴリーに関係するアメリカの住宅事情について記事にしてみたい。なおカオスマップの解説記事については、下記の記事を参照して頂きたい。

https://note.com/fumi_shingai/n/nb730ddbd0c85

https://note.com/fumi_shingai/n/n4993e5e1964c

仕事がら日本の住宅業界関係者とコミュニケーションをする機会が少なくない。年々、日本でもスマートホームの認知度が高まっていることを肌で感じるし、数年前と比較してより多くの住宅関連不動産プレイヤーがスマートホームの導入を検討しているようだ。この状況を見ていると、日本でもスマートホームの標準化が加速していく日も遠くない気もしている。

日本を代表する不動産デベロッパーがプラットフォーマーに?!

我らがX-HEMISTRYが関わった三菱地所のHOMETACTは、日本を代表する不動産会社自らが立ち上げた新しいスマートホームサービスだ。

スマートホームが普及する海外でも、不動産会社が自らスマートホームのプラットフォーマーになるケースはかなり稀だ。しかし三菱地所は、サービス化を検討する数年前からスマートホームの海外動向を綿密に調査し、日本でも確実に普及するどころか当たり前化すると判断。その結果、単にスマートホームを導入するだけでなく、自らがプラットフォーマーになるべき、という決断をした。

自らがプラットフォームを作っていく、という決断には我々も驚かされたが、並々ならぬ意気込みを感じ取り同じプロジェクトメンバーとして企画段階から伴走し、実に2年以上かけてプラットフォームを立ち上げた。

その後、三菱地所はプラットフォームを外販していくことを決断したが、非常に注目度が高く、多くの引き合いが来ている。

三菱地所が日本の不動産業界に大きなうねりを作ったようで、業界で活動する我々の耳にも、あちらこちらから多くの不動産会社がスマートホームの導入を検討しているという声が聞こえてくる。それを見聞きしているとスマートホームの普及が日本でも加速していくことは間違いない、という肌感覚を感じている。

なぜ日本でスマートホームが浸透していかないのか

しかしながら、体感として一向にスマート化された物件が増えていかない。もしくは、スマート化されていたとしても、試験的な導入に留まっているのか、家電コントローラとその他少数のスマートデバイスしか導入されてず、スマートスピーカーで家電を動かせますよ、というDIYでも出来てしまう中途半端な物件が目立つように思える。

予算を気にしすぎて、試験的に中途半端な導入をしたことで反響や効果が薄く、さらにスマートホーム化に疑問を持ち、立ち止まってしまう企業も見てきている(スマートホームベンチャーの軽快で勢いを感じるトークについ乗ってしまい、痛い目にあってしまったという例もあるが…)。

「なぜ日本では導入が進まないのか」ということも頻繁に聞かれる。理由はいろいろあるのだが、最近は経営者マインドが一番の原因にあるように思えている。

そう感じる理由は、僕らが会話しているスマートホームに未来を感じ検討している住宅業界の担当者は年齢でいうと大体20代中盤〜40代中盤の年齢層が多い、というかほとんどだ。

そういった担当者は異口同音に「うちの上司や経営陣のリテラシーの低さが課題で、関心や理解が得られないことがプロジェクトを進行させる上での課題なんです。」という言い方をする。いつも苦笑いをしてしまう瞬間である。

スマホやパソコンも、当初は「自分には必要ない」派がいた

スマートフォンなども出始めたころは同じで、ガラケーで十分だとか、自分にはいらないと言っていた人たちが非常に多かったわけだが、あっという間に当たり前になった。僕は新卒からIT業界に身を置いていて、ISPを立ち上げた経験もあるので普及の課程を肌で感じてきているが、パソコンやインターネットの普及も同じ道を辿ってきた。

住宅業界で言うと、シャワートイレや床暖など今は当たり前になっている住設も当初がなかなか理解が得られず普及させて行く上で似たような課題に直面していたそうだ。そういった製品の開発や販売に関わったことがある先輩方に話を聞く機会があったのだが、シャワートイレに関してはコストアップになる、住設として10年保証できるのか、床暖もコストアップになるという声は同様だが加えて床の下で漏水が起こるリスクがある、と散々言われて普及に至るまで相当苦労があったようだ。

スマートホーム先進国アメリカやその他海外諸国での普及状況

スマートホームプロ集団の我々は常にアメリカの動向をウォッチしており、日本人が誰も参加していないアメリカのスマートホームカンファレンスやスマートホームに関する有償調査レポートの中にそのヒントとなるデータポイントがあるので少し紹介したい。

2020年に行われた集合住宅の不動産デベロッパー向けのサーベイ結果によると、こんな結果になっている。

・スマートホーム化した物件の開発は差別化になる 65%
・物件の価値向上に繋がる 65%
・賃料アップに寄与している 57%

※ Parks Associatesの調査結果

同じく2020年に出された普及予測によると2025年には新築の40%がスマートホーム化される、という数字も出ていたが、実際には2020年時点で新築の40%くらいが実際にスマートホーム化されているという調査データもある。

恐らく2023年現在にサーベイが行われれば、もっと高い数字になっていることは間違いない。

ちなみに賃料アップ効果はどの程度なのかというと、サーベイによってばらつきがあるが、おおよそ20〜100ドルくらいの賃料アップ効果があるという調査結果が多いようだ。幅は地域や間取りなどの差から来ている。

日本のスマートホーム化は、不動産業界経営者のリテラシーにかかっている

日本でもスマートホーム化することで賃料や販売価格に反映できているという事例も少しずつ出てきており、日本でスマートホームが当たり前になる流れができはじめている。ここから本格的な普及期に入っていく鍵を握っているのは、40代中盤以上のリテラシーと言っても過言ではない。

これまで当たり前になってきたものの普及速度を考えると、関心を示さず出遅れることがリスクに繋がる可能性もある。

アメリカの例をよく引き合いに出しているが、中国でも昨今はスマートロックなどがついていない物件を見ることがなくなったそうだ。東南アジアでも高級物件を中心にスマートホームの需要が高まっている。

日本がスマートホーム後進国になるかならないかは、不動産業界経営者のリテラシーにかかっていると言っても過言ではない。


著者 : 新貝 文将

スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役。

2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。

2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。

2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。

リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作にも深く関わり、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。

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